日曜朝の礼拝「私たちの力尽きるときにも」

　主イエスが一人娘のいやしを願い出た会堂長ヤイロの家に向かっておられる途中、医者からも治してもらえない女性が主イエスに近づいてきました。この二つの出来事は、福音書が書き記される以前の段階で、すでに一つのこととして語り伝えられていたのだと思われます。

　ヤイロはこのとき、会堂長という自分の立場やメンツをかなぐり捨てて、主イエスの前にひれ伏しています。十二歳の娘が、突然、病になって、死に脅かされていたからです。もう一人の女性は、十二年もの間、出血が止まらないという病気でした。女性の年齢は明かされていませんが、そのような病気では結婚が難しかったでしょう。それだけでなく、出血が止まらないことは宗教的なけがれとみなされたため、礼拝に加わることはもちろん、人との交わりに加わること自体が困難でした。そのため、彼女は必死になって病と闘い、ついには全財産をつぎ込むことになった。そしてなお、治るどころかむしろ悪くなっていた。

　ヤイロと女性は、こうして、力尽き果てて主イエスの前に立っています。人間的に考えられることはすべてして、もはや希望はついえた。けれども、そう思われるところに主イエス・キリストが立っておられる。この御言葉が明らかにすることは、第一に、このことです。人の思いとしては、地の果てにまで来て、絶望の淵に立たせられている。しかし見よ、そこに主イエス・キリストがおられる。「どこに行けば、あなたの霊から離れることができよう。どこに逃れれば、御顔を避けることができよう。天に登ろうとも、あなたはそこにいまし、陰府に身を横たえようとも、見よ、あなたはそこにいます」（詩編139:7,8）。希望も何もないと思われるところで、けれども私たちは、主イエス・キリストと出会うことができます。

　さて、十二年間、出血が止まらなかった女性は、けがれているとみなされていましたから、群衆に紛れ込み、隠れるようにして主イエスに近づきました。「主イエスに触れるだけでもいやされるかもしれない」と考えて、藁をもつかむ思いで主イエスに手を伸ばして、触れました。触れたと言っても、服の房、服の裾にかろうじて触れたのです。しかし、彼女にとって、ただそれだけのことにどれほど勇気が必要だったであろうか。そして、彼女は驚いたでしょう、実に、ただそれだけで十分だったのです。出血はただちに止まりました。主イエス・キリストはまことの神であり、命の主であられるからです。人に命をお与えになるお方なのです。

　主イエスはひそかに立ち去ろうとする彼女を呼び止めます。「わたしに触れたのはだれか」。ご自分に触れたのが誰であるのか、主イエスに分からなかったということではありません。これは、彼女をご自分の前に立たせるための招きの言葉です。病のいやしは、ただいやしという奇跡で終わってはなりません。主イエスの前に立つことによって、彼女は、病がいやされるだけでなく、生けるまことの神をあがめて賛美することへと導かれました。それゆえ、主イエスは、「あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい」とおっしゃって、彼女を励まされたのです。

　苦しみの時に、もちろん、主に依り頼むことができます。けれども、大切なことは、順境の時も逆境の時も変わることなく主なる神を信頼し、主をほめたたえることです。そのような信仰こそ、苦しみや困難の時を耐え忍び、試練に打ち勝って、地上の歩みを全うできる信仰だからです。

　触れて立ち去るのではなく、主イエスの御前にとどまる者は幸いです。そうしてこそ、体だけではなく、人としての私たちの全体がいやされ、神の御前に健やかに生きる者とされます。そのために主イエスは、「わたしに触れたのはだれか」と、今も呼びかけておられます。主イエスの御前にとどまる信仰の仲間が起こされるよう、祈り続けて参りましょう。