日曜朝の礼拝「本国は天にあり」

　「しかし、わたしたちの本国は天にあります」。とても印象的な御言葉です。私たち信仰者の土台が天にあることを言い表す、使徒パウロの信仰告白の言葉です。「本国」とは、ローマ帝国の市民権を意味する言葉です。ユダヤ人によって捕らえられたとき、パウロは、ローマ市民権を持っていたので逃れることができました。パウロは首都ローマに向かいましたが、それはローマで皇帝直々の裁判を受けるためでした。パウロにとって、市民権は現実にパウロを支え、守ってくれる力でした。

　そのローマの市民権を意識しながら、しかし、パウロの視線はそれを超えたところへと向けられています。ローマ帝国の市民権よりももっと大きく、広く、豊かな市民権がある。もっと大切な、人間にとって本質的な市民権がある。それが天に市民権があるということです。私たちキリスト者は、主イエス・キリストによって恵みに入れられて、キリストに捕らえられています。キリストに結び合わせられて、私たちは皆、天に国籍を持つ。ですから、私たちキリスト者は、この地上を生きていますが、決して地上に土台をおいて生きているのではありません。キリスト者の土台は天にあります。十字架と復活のキリストが上げられて、父なる神の右に座しておられるところ、その天にこそ私たちの土台があります。

　天を本国とし、天を故郷とする。その恵みの中心は、何と言っても、天におられる主イエス・キリストとの交わりが与えられることです。主イエス・キリストは、復活ののち天に挙げられて、父なる御神の右に座して、この世界、またご自分の民を治めておられます。その主イエス・キリストとの交わりです。キリストは、私たちの身代わりとして十字架につけられてくださったお方であり、私たちの罪を償って、罪の赦しと復活の命をお与えくださったお方です。そのキリストが天におられ、御父に私たちのことを執り成してくださっています。このキリストの恵みが与えられることこそが、天に国籍を持つことの中心です。このキリストとの交わりが与えられて、キリストのおられるところが私たちのふるさとです。そして、私たちは、キリストにあって神の子とされ、神の子としての豊かな恵み、主なる神からの大いなる遺産を受け継ぐ者とされています。

　その一方で、天を本国とし、故郷とするとは、決して地上の事柄を軽んじたり、おろそかにすることではありません。キリストは天におられ、しかし、この地上にご自身の体なる教会を建ててくださいました。私たちは地上においてキリストの体なる教会とされています。ですから、地上を軽んじるのではありません。生けるまことの神はこの天地を造られたお方ですから、この地上も大切にすべきもの、尊ぶべきものなのです。

　心に留めるべきは、地上のものに執着しないということです。地上のものは、それ自体で普遍的な価値を持つものではありません。すべて神の御前でこそ価値があり、確かなものとされます。私たち自身を含めて、地上のものはすべて朽ちるものですが、主なる神によってこそ確かなもの、朽ちないものへと変えられます。ですから、私たちは、すべてを与え、取り去りたもう主なる神の御前に謙そんになり、何かを自分のものとして固執することを止めるのです。地上のことども、お金や仕事、名誉や地位などに固執して、それらに依り頼むことを止めるのです。依り頼むべきは、ただお一人、主イエス・キリストであり、その父なる御神です。そこに、天を本国とするキリスト者の生き方があります。

　天を土台とするとき、私たちは、地上の論理の奴隷になることなく、キリストとの交わりによって生かされ、慎み深く忠実に神と人に仕えて生きる者とされます。主イエス・キリストが再び来られることを待ち望み、天の恵みに生きる者として、慎み深くこの地を歩んで参りましょう。