日曜朝の礼拝「もう一人の放蕩息子」

　放蕩息子のたとえは兄弟の物語です。兄は父親と一緒に働きながら生活していました。たいへん模範的な息子、孝行息子に思われます。しかし、兄は「わたしは何年もお父さんに仕えています」と言いました。この「仕える」とは「奴隷として仕える」という言葉です。兄は父親に忠実に仕えて親孝行でしたが、それは奴隷に等しいものであった。そうすると、そのような兄の姿を見て育った弟が自分は奴隷のような生き方をしたくないと思って家を飛び出しても仕方がないと思えてきます。弟はむしろ自分の人生を大切にしたということなのかもしれません。

　人間の親子の関係ならば、家を飛び出したほうがよいということがあるでしょう。けれども、これは父なる神と私たちについてのたとえです。父なる神のみもとから飛び出して、信仰など持たずに生きたほうがよほど人間らしいと考えるならば、間違ってしまいます。真実には、信仰など持たずに生きたほうが人間らしいと思い、神はいないと考えて社会を建て上げた結果、今のこの世界はいろいろなきしみが生じて、多くの人が悲鳴を上げることになっているのではないでしょうか。

　家を飛び出していた弟が帰ってきて、父親が盛大な宴会を始めたことを聞いて、兄は怒りました。当然でしょう。兄はこれまで我慢を重ねていました。弟をうらやみ、ねたむことがあったでしょう。弟がいなくなって仕事がいっそうきつくなったということもあったでしょう。ところが、父親は弟をとがめることなく迎え入れ、宴会までしている。そうして、たまっていた不平不満や怒りが父親に向かって吹き出しました。それに対して父親は、「子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ」と言います。これは兄の怒りと不平不満を正面から受け止ようとする姿です。たとえ怒りを向けようとも不平不満を言いつのろうとも、兄が愛する子であることは変わりがないからです。

　この二人はまさに兄弟であり、同じ問題を抱えていたと言えるでしょう。どちらも父親を誤解し、父親から離れていました。また、どちらも自分を見失っていたのです。弟は自分の力で生きていこうと無理をして自分を見失い、兄は忍耐を重ねて無理をして自分を見失っていました。神を誤解し、自分を見失っている、それがこのたとえの描く私たち人間の姿です。その一方で、このたとえは印象的な父親の姿を示します。まだ遠く離れている間に弟息子を見つけて走り寄って抱き、何もとがめることなく息子として迎え入れる姿。怒って家に入ろうとしない兄息子のところに出て行ってなだめ、自分のすべてを与えようとする姿。この父親の姿を見よと言って、真実の神の姿を私たちに指し示します。

　私たちは、神がどのようなお方なのか、しばしば誤解しています。神を信じて生きるならば、自分が失われてしまうように思われる。神がおられるならば、神を恐れてビクビクしながら生きなければならないように思われる。いいえ。そうではありません。自分が失われるのではなく、真実の自分を見出すことができます。神を恐れず大胆に神に依り頼むことができます。神は愛である。その神の愛に信頼すればよいのです。そして大切なことは、弟息子が我に返って父親のもとに帰ったように、私たちも神の愛を知って我に返り、神のみもとに立ち帰ることです。

　このたとえを語られた主イエスは、十字架につけられて、神の愛をお示しくださいました。神は、神の愛を知って神を愛するという、私たち自身の自由な決断が用いられる道を切り開くために、十字架という方法を用いられました。私たちは十字架に示された神の愛を知って、ありのままの自分をさらけ出して神と向かい合うのです。主なる神は、ご自身の愛の御手を広げて、私たちをしっかりと受け止めてくださいます。